おしまいの断片。
僕の大好きな作家で、レイモンド・カーヴァーという人がいる。残念ながら20年以上も前に肺ガンでこの世を去った。没後何十年経っても色褪せることのない最高の書き手の一人である…と僕は思う。
カーヴァーは素晴らしい短編小説を書く、いわゆる「短編の名手」だが、いくつかの散文と詩篇も残している。その中に「おしまいの断片」という短い詩があり、彼自身が眠る墓石の上にも刻まれている。僕はずっとこの詩を大切にして生きてきたし、大切な人へも送ってきた。特に後半の二行は心の奥底まで染み渡り、あふれた雫は涙となって零れ落ちる。
「おしまいの断片」
たとえそれでも、君はやっぱり思うのかな、
この人生における望みは果たしたと?
果たしたとも。
それで、君はいったい何を望んだのだろう?
それは、自らを愛されるものと呼ぶこと、自らをこの世界にあって
愛されるものと感じること。
カーヴァーは全てのひとの人生において「愛、死、夢、望み、成長、自分自身及び他人の限界と折り合いをつけること」が重要だといった。この短い詩には、重要だと言っていたその全てが凝縮されているように思う。
この詩篇も含めてカーヴァーの遺したいくつかの作品を通し、僕は小説を読む愉しみを知り、人生におけるたくさんのことを学んだ。そして、僕の中の大切な場所に紛れもない滋養として、今も生き続けている。
僕自身の「LATE FRAGMENT」を大切なひとに手渡せるのだとしたら、それはいったいどれほどのものなのだろうか…
象・滝への新しい小径 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈6〉
- 作者: レイモンドカーヴァー,Raymond Carver,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論社
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