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ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

あいおい文庫と佃島。

あいおい文庫の窓からは、大きな桜の樹が見える。今日は朝からとっても風が冷たいので、せっかく膨らみはじめた桜の芽たちが、ギュッと身体を丸めて小さくなっている。
いよいよ「あいおいブックラボ」によるブックイベントが開催間近となった。できることなら、たくさんのお客さんを満開の桜と澄んだ隅田川と清々しい空のもとで迎えたい。買った本を開けば、そこに桜の花びらが舞い落ちて一つの思い出となる…そんな一日になるようにと心から願う。大きな桜の樹に手を当てて、「どうかよろしくお願いします」と毎日話しかけてみてはいるのだけれど、はたして願いは届くだろうか。

あいおい文庫の母体である「相生の里」は、佃という「まち」の中にある。現在の地名は「佃」なのだけれど、もともとは「佃島」だった。せっかくなので、ほんの少しだけ佃の歴史に触れてみたいと思う。天正9年(1582年)、信長と同盟関係にあった家康は明智光秀に追われ退路を絶たれる。海路での脱出を図ろうということになるのだが、それには船や船頭が必要となる。そこで力を貸してくれたのが摂津国佃村(大阪市)の漁民たち。これを恩義に感じた家康は、後に佃村の漁民を江戸に呼んで江戸近海での漁を優先的にできるような特権を与えた。その佃村の漁民たちが砂洲を拡張し、埋め立てて作った島を故郷の佃村に因んで「佃島」と名付けた。つまり、佃島は360年前の大阪人が作った東京の下町ということになる。佃の鎮守である住吉神社も、大阪の住吉大社が分霊されて創建されたものなのだ。あいおい古本まつりにも来てくださる出久根達郎さんの直木賞受賞作「佃島ふたり書房」の中に、「佃の渡し」というのがでてくるのだけれど、これは佃大橋が昭和39年に竣工されるまで、佃島から対岸の築地明石町まで運航していた渡し舟のこと。一日何十往復もしていたことのあるこの渡し舟は、不便ながらも情緒ある名物だったようだ。一度乗ってみたかったなあ。

そんな「まち」の中で生まれ育った(まだ発育途中の)あいおい文庫なので、「まち」を大切にしたいし、できることなら共に成長しながら歩んでいきたいと考えている。なにも、あいおい文庫を通して「まちを一つにしたい」とか「本のまちにしたい」などと大それたことを考えているわけではなくて、あいおい文庫という「本」にまつわるオープンスペースを利用してもらうことで、誰でも気軽にぶらっと立ち寄れる場所をつくりたいだけなのだ。僕のイメージとしては、親しみやすい「街の映画館」のような存在がそれだ。映画館というのは、その時々でかかっている作品が違う。アクション、ロマンス、時代劇、コメディー、ホラー、アニメなどなど、子どもからお年寄りまで一つの箱の中で様々な楽しみ方ができる場所だ。観たい人や聴きたい人が、自分にあった好きなイベントを選んで足を運べる場所。その気になれば参加イベントのハシゴだってできるような場所。世代を超えて気軽に集まれる場所、毎回主役が代わる飽きさせない場所、お家から出てワクワクしながら足を運びたくなる、そんな「場所」づくりがしてみたい。結果として、この「一つの箱」が「オモイをカタチに変えたいひと」と「まちのひと」の元気につながれば、「相生(共に成長する)」という僕たちの願いにもつながるはずなのだ。

桜の花言葉は「精神美」。心を通わせるうちに見えてくる内面の美しさを表す。桜の季節にスタートするイベントなので、花言葉にあるように華やかにみえる表面だけではなく、それぞれの想いが沁みこんだ内面を美しく保てるように努力したい。いつその内面を見ていただいても恥ずかしくないような、そんな「あいおい」でありたいと心から思う。桜咲く「あいおい古本まつり」まで、あと少し…