人の世。
夏目漱石の作品に、『草枕』という小説がある。その中の冒頭に、次の有名な一文がある。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」
ちなみに、漱石はこれを「書」として門下生である内田百間に贈っているが、後日自らの手で破いて捨てている。「書」として気に食わなかったようだ。こんなところからも、完璧主義の神経質っぷりが窺える。
ただ生きているだけで(神経質な漱石ほどではないにしても)、人の世の生きづらさというものは身に沁みる。善かれと思ったことは裏目に出るし、静観すれば薄情だといわれ、たまに気を遣ってみれば妙に勘ぐられる。いやはや人の世に生きるとは、いつの時代も難しいものである。
この住みにくい世の中にあっては、どこへ逃げても結局は同じことであり、たとえ新天地を求めて移住したとしても、またぞろ嫌になる。では「人でなしの國」へ行けば良いのかといえば、それはそれで猶住みにくかろう…漱石は『草枕』の中でそのようにも言っている。
じゃあ、どう生きればいいのだろう?
そう、ずっとずっと昔から生きる苦悩は永遠のテーマなのだ。 なにも今に始まったことではない。
大いに悩み、苦しみ、自分を探し、居場所を探し、絶望し、再起しながら、そうやって目一杯生きて生きて生きるしかないのだ。いや、そうやって生きてみたい。 生きぬきたい。
ぼくも、あなたも、きっと根っこでは同じような悩みを抱えている。
あなたは一人ぼっちじゃない。
あなたの信じる道だって、単なる孤独の道程ではないはず。
「Only is not lonely」
明日も苦悩は続くのだ。明後日も、その次の日だって…
そう、それが生きるということなのだ。
だから、おもしろい。