読み聞かせと昔語り。
OPEN SPACE あいおい文庫 夏のイベント第一弾
■7月16日(土)13:00〜 あいおい文庫
子どもたちの体内リズムを大切にしながら一緒に絵本を読む…読み聞かせとは、読み手の「言葉」と子どもという「宇宙」との間にある「信頼」に支えられて生まれる一つの「遊び」なのではないでしょうか。この「遊び」の名手、長谷川摂子さんの絵本の読み聞かせと昔語りを、ぜひご家族皆さんで体験しにいらしてください。指人形のちょっとした遊び、絵本を巻物風にアレンジした読み聞かせ(これ、おもしろいですよ〜!)など、お家でも試したくなること請け合いです!
≪(略)……言葉の裏返しを考えるうえでいつも思い出すのは五味太郎の『あそぼうよ』(偕成社)というごく幼い子向きの絵本である。
登場するのはことりとおじさんふうのきりんだけ。ことりが「あそぼうよ」というと、きりんが「あそばない」と答える。毎ページ、このくり返し。しかし、絵をみるとこのきりんおじさんはなかなかふざけんぼで、首をくるくるまわしたり、かくれんぼしたり、あげくのはてはことりを背中に乗せて泳いだり、サービス満点の遊び相手なのだ。しかし口にする言葉は徹頭徹尾「あそばない」。最後にことりが「あした また あそぼうよ」とうれしそうに飛び去るときも、きりんおじさんはとっぽい顔で「あした また あそばない」とこたえる。
この絵本、まじめな保育園幼稚園の先生方には評判はよろしくなかったらしい。どこかの園長先生から「せめて最後だけはあそんでほしかった」という抗議の声が寄せられたという話を聞いて笑ってしまった。が、このやりとりのおもしろさを大人が理解して楽しく読めば、子どもたちはてきめんに喜ぶ。子どもたちはくり返しをすぐ覚え、きりんおじさんになって、わたしが「あそぼうよ」と呼びかけると、みんなで声をそろえて「あそばなーい」と叫び、くすくす笑うのである。意味のうえで反対のことを言っても相手と通じ合うというコミュニケーション体験は、この相手ならばこそ、という濃厚な関係を互いに意識させる。だから、くすぐったい。子どもたちはきりんおじさんになって、言葉の文字通りの意味を超えて相手にふれるのである。そう、ここでは言葉は相手にふれる道具になっている。そのためには文字通りの意味が過激であるほうがふれるという感覚を強くする。言われた方は、はっと胸を突かれ、瞬間、立ち上って、相手の意図を知って笑う。こんなふれ合いが成り立つためにはなんといってもお互いのゆるぎない信頼関係が前提になるではないか。≫
(『とんぼの目玉』「『ウソ』『マジ』考」より抜粋)
- 作者: 長谷川摂子
- 出版社/メーカー: 未来社
- 発売日: 2008/11/01
- メディア: 単行本
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■プロフィール
長谷川摂子(はせがわせつこ)
島根県生まれ。絵本・童話作家。
東京外国語大学卒業、東京大学大学院哲学科中退。
2004年『人形の旅立ち』(福音館書店)で第19回坪田譲治文学賞、第14回椋鳩十文学賞、第34回赤い鳥文学賞を受賞。第一エッセイ集『とんぼの目玉――言の葉紀行』(未來社)のほか、絵本に『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』『みず』『おっきょちゃんとかっぱ』『さくら』など多数。評論に『子どもたちと絵本』(福音館書店)、翻訳に『美術の物語』(共訳・ファイドン)。昔話に「てのひらむかしばなし」シリーズ(全10巻・岩波書店)。最新刊第二エッセイ集『家郷のガラス絵――出雲の子ども時代』(未來社)。