ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

眠れぬ夜に。

痛み止めの薬を飲み忘れ、深い夜に傷が疼いて目が覚めた。
冷たい水を汲んできて、薬と一緒に一息で飲みほす。
だめだ。目が冴えてしまった。
さて、眠れぬ夜をどう過ごそうか。
どこまでも深く永く続くような、そんな夜。
夜がゆっくりと聴こえてくる。


森の木々たちが身を寄せ合って愛撫しあうおと。


静かな寝息。


蝉の求愛。


朝には捨てるラヴレターを書くおと。


遠く聞こえるオートバイの叫びは、もの悲しさのみを残す。


とりあえず、本でも読もうか。
夜の読書は、昼間の読書とは違う。
そこはかとない黒の中では想いが吸収されて跳ねっ返らないから。
読書灯のあたたかな光は、本とぼくとの距離をギュッと縮める。
もうなにもうけつけない。
さっきまで聴こえていた夜のおとさえも。
仕合せな瞬間と永劫。


深沢七郎の「笛吹川」を手に取る。
ぼくは夜を徹してこの小説を読む。
圧倒的な小説。
人生は走馬燈のようなもの。
悦びも哀しみに内包され、ぐるぐるとまわり続ける。
ひとの哀しみは何処まで続くのか。
永劫回帰
眠れぬ夜と笛吹川…なんだか似ている。
読みはじめたら眠れない。
いや、眠れぬ夜に読む本か。
どっちでもいいや。
仕合せと酸鼻な運命と眠れぬ夜。


やれやれ。いったい、いつまで続くのだろう。

笛吹川 (講談社文芸文庫)

笛吹川 (講談社文芸文庫)