ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

読み残し。

十月も後半になると、「今年も残すところあとわずかだな…」などと感傷的な気分になる。いつも以上にロマンチックをきどり、なにかやり残していることはないかとあせったりする。しかし、やり残したと感じるほど日常的に目的意識をもって生きているわけでもないので、たいていは何も思い浮かばない。
そんなぼんくらの本好きに決意できることといえば、「読み残しの本をかたっぱしから読破する」ということくらいのものである。読み残しとは、積読本とは別に、読んでいる途中で目移りしてほったらかしになっている本のことなのだが、この読み残しの本というのは意外に少なくない。気分によっては目の上のたんこぶにもなるので扱いに困る。
 
「読む価値なし」と偉そうに決めてしまった本を除いても、読み残しの本はざっと50冊くらいある。その他にも読まれるのをひたすら待ってくれている未読本があるし、そのときの気分で急に読みたくなってしまう飛び入り本というのもある。そんなふうに先送りにしているうちにうろ覚えから記憶喪失へとかわり、よけいに遠い存在となっていく。そのままほうっておけば、きっともう二度と読まなくなってしまうだろう。それは惜しい。でもまた最初から読み直すほどの魅力は感じられないし……ぐるぐるとそんなことを思ってみては、くよくよ、ちまちま、くさくさする。
 
気持ちを切りかえて何かを決心するということは、自分で思ってみる以上に難しいものだ。エイヤッとおもいきって勢いにのってしまわないとなかなか踏み出せない。そんな勢いを借りるタイミングとして、年末年始という大きな節目はかなり好都合であるといえる。ここらで一気に勢いにのってやろう!
気合十分に「さあて、どこから攻めてやるかな」と書斎に足を踏み入れる。すると、つい先日読み終えたばかりの「ブックカフェのある街/前野久美子 編・著(仙台文庫)」が目に入る。これは、立て続けに2回読んでしまったくらいによかった。こんなに元気と勇気と心地よさをもらえる本はなかなかないよな…ぶつぶつ云いながら手に取る。また読みはじめる。

ブックカフェのある街 (仙台文庫)

ブックカフェのある街 (仙台文庫)

読み終えてから、今度こそ読み残しを…と本の山を動かす。すると、最近マイブームの阿部昭が出てくる。なんとなく最近は(もともと売れっ子ではなかったと思うが)中途半端な扱いのようなイメージのこの作家、だけど実に素敵な短編を書く。芥川賞候補6回という芥川賞史上最多記録をもつ阿部昭は、神奈川県と私小説を愛するぼくにとって最近とても重要なポジションにある。古書価も安いので、ここのところせっせと買っては読んでいる。この人の書くものは地味だ。地味なのだけれど、エッセイも小説も独特の雰囲気をもっていて、読めばたちまち豊かな文章世界に誘われる。身近なものへのまなざし、旅や音楽への想いなどについて書かれたものがとてもいい。

未成年・桃 阿部昭短篇選 (講談社文芸文庫)

未成年・桃 阿部昭短篇選 (講談社文芸文庫)

いけない。また脱線した。ここでようやく読み残しの本を手にとる。すると目の前の山に、大好きな小山清の文庫がチラリ…


ぐるぐる、ちまちま、くよくよ、くさくさ、来年まで持ち越しそうだ。