名前を愉しむ。
お正月といっても、お酒を呑みながら本を読んでゴロゴロしているだけなので、ひまつぶしに文学者の名前を冠した文学賞をあれこれ調べて遊んでいた。
普段はあまり意識したことのない、作家の名前ばかりをつらつらと見ていたら、なんとなく人の名前の可笑しみについて考えてみるようになった。みんながみんな本名ではないにしても、必ずそこには人の何がしかの想いが籠められていたり、その時代特有の背景が色濃く反映されているようで面白い。名前の歴史は人の歴史でもある…と思う。
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たとえば芥川賞を受賞した作家なら石川達三にはじまって、尾崎一雄、火野葦平、小尾十三、安部公房、松本清張、安岡章太郎、庄野潤三、遠藤周作、大江健三郎、宇能鴻一郎、田辺聖子、丸谷才一、古山高麗雄、古井由吉、野呂邦暢、西村賢太など、平凡な名前から個性的な名前まで色とりどり。漢数字の入った名前はなんと23人もいることが分かった。まあ、だからなんなのって話なのだけれど。
そんなふうにしてジッと名前を見ていると、どんな人なのか想像して遊ぶことができる。何人目の兄弟なのか、太っているのか痩せているのか、お金持ちか、優しい人か…もちろん実際の人柄とは違うだろうけれど、写真やプロフィールと見比べてみると意外にイメージ通りだったり、名前とは似ても似つかない人だったりしておもしろい。
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単に把握すべき対象を識別するための言葉として名前をつけるのではなく、そこに期待や希望を籠めたり、語呂、響き、文字の美しさで親の想いを表現したりすることもある。
わが家には3人の子どもがいるが、それぞれに特別な想いを籠めて名前をつけている。
長女・和音(わのん)。生きていくってことはハーモニーだから、ゆずりあい協力しあって生きていくことのできる人になってほしいと願って。
長男・月音(つきと)。お月さまの光のように、やさしく夜道を照らしてあげられるような優しい人になってほしいと願って。
次女・響(ゆら)。「玉響(たまゆら)」からもらった言葉。玉がゆらぎ触れ合うような、人のかすかな声にも耳を傾けられる人になってほしいと願って。
三人とも分母に「音」という字がついているのは、ぼくが「本のチカラ」と同じくらいに「音楽のチカラ」ってやつを信じているから。音楽は世界共通の言語。いろいろな人がいて、いろいろなことがあるけれど、どんなときも人と人との間で生を奏でてほしいと願って。
のらりくらりと脱線しながらこんなことを考えて正月を過ごしていたわけだけれど、歴史だの背景だのと小難しいことを言っておきながら、最終的に自分に近しいところまで戻ってきてしまうあたりが貧乏くさいと我ながら思う。さらには、しみじみと子どもたちが生まれたときのことを思い出し、西原理恵子じゃないけれど「神様 ぼくに子どもを ありがとう」などと思って目頭を熱くし、傍にいた連れ合いに「なんで泣いているの?」と訊かれる始末。「いや、作家の名前がね…」などと訳の分からないことを口ごもりつつ、短くも充実した正月休みを終えるのであった。