ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

旅のツヅキ。

京都のdecoさんから、『DECO・CHAT vol.2 旅のツヅキ』(2012年 deco社)が届いた。本と旅を愛するひとのためのリトルプレス。


届いたフウトウはすぐに開けずに両手で持って、中に入っている本を思い描き、まずはドキドキに身をゆだねる。そのままフウトウに入った本を軽く上からギュッとつかむ。なんのためにそんなことをするのだか自分でもよくわからないのだけれど、本が届くとたいてい儀式のようにそんなことをしてみる。それからフウトウの上の部分をペーパーナイフで丁寧に切り開けて、やわらかく護られた本を中からそっと取り出す。ドキドキはどんどん膨れ上がっていく。透明の衣をまとったまま、本は手の中でくるくるとまわる。表情のかわる本を眺め、しばし余白の時間を愉しむ。ドキドキはもう最高潮だ。そしてクライマックス。お母さんの胎内を潜る赤ちゃんに手を差し伸べるように、傷つけないよう細心の注意を払いながらゆっくりと本を取りあげる。ドキドキは、小さな破裂をおこす。


年の瀬も押し詰まってきたこのタイミングで、買わずにはいられない、読まずにはいられない、そんな本がぞくぞくと出ている。ものすごくうれしい反面、ちょっと困っている。
『DECO・CHAT vol.2 旅のツヅキ』も、そんな本たちの中の一冊。今も傍らにこの本を置いてうっとりしながら書いているのだけれど、そのじつ昔ばなしで草鞋やカサを売りにいく年の瀬のおじいさんに心境は近い。夜中に米俵を担いだお地蔵さんが、えっちらほっちらと我が家にやって来てくれることを夢みている。


あっというまのボリュームなのに、本の扉を閉じるまでにとても時間がかかる。このリトルプレスについては、あれこれ語るよりも、このヒトコトに尽きるだろう。


『DECO・CHAT(デコ・シャ)vol.2 旅のツヅキ』

執筆者(敬称略)
詩:扉野良人
エッセイ:荻原魚雷 島田潤一郎(夏葉社)河田拓也(For Everyman)
写真とデザイン:東海林さおり(ocyk production)
翻訳者:林裕美子

本と暮らす(旧half-moon street 125)