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ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

夕方の三十分。

うちの子どもたち、上から2年生、1年生、2歳半になる。このくらいになると、だいぶん生意気なことをいう。そろいもそろって生意気なことをいう。あんまり生意気なので、生意気いうなと叱る。歯向かってはくるものの、けっきょく大泣きすることになる。そんなふうに、本気になって子どもたちとケンカをしていると、いつもこの詩を思い出す。

コンロから御飯をおろす
卵を割ってかきまぜる
合間にウイスキーをひと口飲む
折り紙で赤い鶴を折る
ネギを切る
一畳に足りない台所につっ立ったままで
夕方の三十分
僕は腕のいいコックで
酒飲みで
オトーチャマ
小さなユリのご機嫌とりまで
いっぺんにやらなきゃならん
半日他人の家で暮らしたので
小さなユリはいっぺんにいろんなことを言う
「ホンヨンデェ オトーチャマ」
「コノヒモホドイテェ オトーチャマ」
「ココハサミデキッテェ オトーチャマ」
卵焼きをかえそうと
一心不乱のところに
あわててユリが駈けこんでくる
「オッシッコデルノー オトーチャマ」
だんだん僕は不機嫌になってくる
化学調味料をひとさじ
フライパンをひとゆすり
ウイスキーをがぶりとひと口
だんだん小さなユリも不機嫌になってくる
「ハヤクココキッテヨォ オトー」
「ハヤクー」
かんしゃくもちのおやじが怒鳴る
「自分でしなさい 自分でェ」
かんしゃくもちの娘がやりかえす
「ヨッパライ グズ ジジイ」
おやじが怒って娘のお尻をたたく
小さなユリが泣く
大きな声で泣く
それから
やがて
しずかで美しい時間が
やってくる
おやじは素直でやさしくなる
小さなユリも素直にやさしくなる
食卓に向かい合ってふたり座る
(「夕方の三十分」黒田三郎/『黒田三郎詩集』1968年 思潮社

そのまんま、うちだ。
大泣きしても、ぷりぷりしても、そのうちだんだんやさしくなれる。
みんな素直でやさしくなって
それから
五人でテーブルを囲む。