ハチドリのとまる場所。

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あいおい文庫の5年間。

「あいおい文庫」という一つの取り組みをはじめてから、もう5年になる。以前にも同じようなことを書いたことがあるのだけれど、もう一度ここで振り返って整理しておかなくてはならない時期にきたので、しっかり書き留めておきたいとおもう。


相生の里のような社会福祉施設というのは、公共性に乏しく閉鎖的であるという課題をもう40年以上も引きずっている。2000年の社会福祉基礎構造改革を機に「地域福祉」「施設の社会化」などと云われるようになったが、その課題は今もなお課題として残っている。
 
本来、社会福祉施設というのは地域で生活する人たちが、その地域で継続して生活できるようにするための社会資源の一つであり、言い換えれば施設を利用するということは、地域で生活をするということと双方向に等しい意味でなくてはならない。「ずっと暮らしてきた慣れ親しんでいる環境で、今までのように人と関わり合いをもちながら自分らしい生活を送りたい、できればそこで最期を迎えたい。でも、どうしても施設で暮らさざるを得なくて…」そういった地域にある潜在的なニーズ、地域の切なる願いに応えられるシステムを整備してこその社会福祉施設であり、それが地域福祉の原点であるとぼくはおもっている。別の見方をすれば、地域福祉というのは街づくりの一環であり、住民が安心して暮らし続けるための「街づくりの核」となるべき存在であってもよいはずなのだ。
 
しかし、実際には施設自体が地域から距離をおいた存在となっているため、施設で暮らしている利用者も当然地域から離れた存在とならざるを得ないというのが現実である。その理由というのは一つだけではないし、それは社会福祉の辿ってきた歴史的な背景などにも起因する。その辺の話をすると長くなってしまうのでここでは割愛するけれど、とにかくこれからは「今現在は福祉サービスなんて無縁だと思って生活しておられる方」が、気負わずに足を運ぶことのできるような光を施設に当てていかなくてはならないのだ。地域のなかに積極的に入っていって参加し、従来のような福祉的な匂いだけのアプローチで完結させず、同情や義理に頼らない、一般の方々にとって普通に興味の持てるような、関係者以外の人の流れが自然にできる方法でアプローチしていくことが大切なのだとおもう。快適な住まいと安心できる支援を基盤に、地域に対して光をつくるアプローチ、地域という光の中に入っていくアプローチ、そのどちらか一方にかたよることなく、バランスよく地域との接点をつくっていくことがこれからの施設づくりにはかかせない。
 
この5年間、この取り組みに対する理解がなかなか得られず、辛いおもいをしたことも多々あった。泣いたり笑ったりの「あいおい文庫」だったけれど、あの頃に蒔いたタネが、ようやく小さな芽を出すところまではやってこれたのではないかとおもっている。もちろん、たくさんの人たちの力を借りて。ようやく出てきたこの青々とした芽を摘んでしまうことのないように、絶やさないように、みんなで一丸となって水をやって大事に育て、いつか立派な花を咲かせることができればと切に願う。