ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

東京ベンチの真面目な話。

 江戸川区にある瑞江という街に、「東京ベンチ」というブックカフェとデイサービスを融合させた新しいスタイルの場所(ケアブックカフェ)をつくった。職場でもなく家庭でもない、もう一つの居場所(サードプレイス)として、世代や人を選ばない居心地の良い空間づくりを目指している。

 なんで江戸川区に?とよく訊かれるのだけれど、この辺りは子どもやお年寄りが多く、水と緑の公園も多い。そんな公園のベンチを囲んで将棋を指しているおじいちゃんたちを見かけると、なんだか懐かしいようなあたたかな気持ちになる。いいなあ、こういう空気感。こんな場所に昔から住んでいる人たちが、この先もずっとこの地で住み続けることができたらいいし、ぼくのように他の地域から移ってこられた方にとっても居心地のよい懐かしさを感じ続けられる、そんな地域形成であってほしいと心からおもい、この場所に決めた。

 ぼく自身、実は昨年末から江戸川区民になっている。街と一緒に成長していくためにはここしかない、そう強く決心してから移住するまで本当にあっというまだった。出身は横須賀なのだけれど、今ではその生まれ故郷と同じくらい江戸川に対する愛情はふくらみ、この変化していく社会の中で残していくべき「街や人とのつながり」を、この地域で大切に育てていければと切に願っている。

 東京ベンチの「ベンチ」のことについては、この前の記事にも書いたのだけれど、大事なところなのでもう一度。

 たとえば、疲れたなあとか、ちょっと一服しようかとか、世間話したり、とりあえず腰かけたいなというとき、そこにベンチがあったらいいなとおもう。街のどこかにぽつんとあって、老若男女問わず誰でもおかまいなしに利用できる当たり前な場所。そんな「ベンチ的な場所」に気兼ねなく人が集まることができて、そこで刺激しあったり、支えあったり、一緒に笑ったり学んだりしながら共に成長できたらいい。年を重ねることで、時代が変わっていくことで、人が離れたり離されたり、居場所が狭まったり無くなってしまうのはおかしい。若者だって年寄りだって、草臥れたときにはちょっと腰かけて、一服して、一緒になんでもない話をしたりして笑い合えたなら、また気分を変えて新しい一歩が踏み出せるかもしれない。そんな場所をつくりたい、ずっとそんなふうにおもっていたことをカタチにしてみたのが東京ベンチであり、それこそがうちの理念でもある。

 とはいえ、「なんだ、福祉施設か。じぶんとは関係ないな」とおもわれてしまう方も多いことだろう。しかし、ここは紛れもなく普通のブックカフェ。こだわりのコーヒーと古本を用意した、普通のブックカフェ。カフェだけの利用はもちろん、本だけ買って帰るというのも全然OKなのである。

 コーヒーは厳選したこだわりの豆だけを使用して焙煎した東京ベンチブレンド。ご注文いただいてからその都度挽いて淹れるので、少し時間はかかるけれど卒倒しそうなほど香り立つ。一口飲めば、たちまち違いの分かる男(女)になれること間違いない。テラスにはベンチとテーブルをご用意し、外からの窓口ではテイクアウトもやってます。至福の時をどうぞ。

 本は買うことも読むこともできる。店主の趣味に若干の偏りがみられるかもしれないけれど、できるだけ多くの方に楽しんでいただけるよう、あらゆるジャンルの本を用意したつもりである。あいおい文庫時代からの「親子で楽しんでほしい」という気持ちは変わっていないので、絵本や児童書は多めに取り扱っている。また、友人の古本屋さんや大好きなライターさんに一部提供したことで、偏りの中にも変化のあるおもしろい棚になっているのではないかとおもう。さらには、東京ベンチのロゴをデザインしてくれた武藤良子さんの絵も飾らせてもらえることとなり、このどこにもなかった空間はますますスペシャルな場所として彩られている。本が好き、古本が好き、コーヒーが好き、そんな匂いや空間が好き、ひとつでも当てはまる方はぜひ一度遊びに来てみてください。きっと気に入っていただけるかとおもいます。

 夕方から夜は、晩酌してから帰れるような時間にしたいとおもっている。ひとりぼっちのしんみりした夜も悪くないものだけれど、たまには誰かと話をしながら一杯やって寝るというのも悪くないはず。足の不自由なお年寄りにとっての赤提灯は、近くにあるけど遠い場所。でも、うちならケアもできるし車で送ってもあげられる。そんなに大したものも出せないけれど、その時間で少しでも何かを埋めてもらえたらいいなとおもう。この時間でもやはり、同じように世代や時代や日常に縛られない空間をつくりたい。

 枠を超えたい。奇抜なことがしたいというのではなく、そもそもなくてよかった枠を超えてしまいたい。それが当たり前になったらいい。