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ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

障害のある人が働くということ。

 少し前に、千葉県の市川市で「障害のある人が働くということ。それぞれの現場で感じること」というテーマでお話をさせていただく機会を得た。あれこれ考えた末、古書肆スクラムという取り組みをはじめてからの一年間についてお話させていただくことでこのテーマに近づけたらとおもい、以下のようなことを語った。初心を忘れないように、備忘録としてこの日記に残しておきたいとおもう。ちょっと長いけど。 

  いま、私たちの事業所は「まちの古本屋」を運営しています。もちろんB型事業所としてです。文字通り古本屋ですので、本の店頭販売はもちろんのこと、お客様のお宅へうかがっての本の買取り、専門業者が集まる市場への参加、本のクリーニング作業、インターネットでの販売、発送作業、街のブックイベント等の計画及び参加などを行っています。

  なぜ古本屋なのか。答えは簡単です、本が好きだから。つまり、好きなこと=自分の最大の武器を使って、福祉っぽくない福祉事業所づくりをしたいと考えたからです。

 開設当初からの作業内容は、雑誌のふろく作りやチラシ折り等、主に内職仕事を中心としてやってきました。誤解を恐れずにいえば、障害のある人を支える仕事と考えた場合、この内職作業というのがミスマッチなのではないかとずっと思っていました。受注作業の性質上、一点10円にも満たないような単価の低い作業で一定の工賃を生み出さなくてはならないため、差し迫る納期に追われながら、利用者さん個々の現有能力に応じた作業配分や評価もできず、また最終的には職員が残業をして帳尻を合わせるという始末で、細かな生活上のマナーも含めた本来の支援が難しい状況にありました。また、どの利用者さんも精一杯努力して作業にあたっているにもかかわらず、工賃は全国平均を大きく下回っていました。彼らの仕事内容、その市場価値がもっと正当に認められ、また評価してもらうことはできないものか、そのための方法についての試行錯誤は、こんなところからスタートしました。

  個々の現有能力に応じた作業配分や評価というのは、事業そのものにある程度のゆとりをもたなければ簡単なことではありません。たとえば、皆勤賞の利用者Aさんがいたとします。雨の日も風の日も休まずに一所懸命に丸一日通って働いています。しかし、この利用者さんは全力でがんばっても作業ペースは遅い。一方、精神的なことなどが理由で週に2日しか来ることができず、作業時間は短いけれどペースの速いBさんという人がいます。Bさんは、Aさんの倍以上の作業効率で仕事をこなすことができます。さて、この場合のAさん・Bさんの評価というのはどうなるのでしょう。完全出来高であれば、Bさんが倍以上の工賃を貰い、Aさんは半分以下ということになります。出勤率だけならBさんはAさんの半分以下の工賃ということになります。考え方は事業所によってそれぞれだと思いますが、AさんやBさんにとっての100%を、50%以下としか評価できないあり方に私は疑問を持ちました。

  こういったジレンマをなんとか打開できないものか、という想いではじめたのが「古書肆(こしょし)スクラム」という取り組みです。古書肆というのは「古本屋」という意味なのですが、冒頭でもご説明したように、文字通り「まちの古本屋」としての新規事業を昨年の7月から開始いたしました。この「まちの」というのがスクラムのパースペクティブでもあります。

  この取り組みにより、一定の利益を維持しながら、内職仕事も含めた軽作業から中度・高度な作業まで、集団で出来る作業から小グループでの作業まで、障害、体力、精神状態に合わせて短時間から丸一日の作業まで、現段階で可能な限りの働き方、障害のある人にも選択してもらえる環境を整備することができました。野球のピッチャーでいえば、先発や中継ぎ、ワンポイントリリーフというふうに、出来る限り柔軟に受け入れて評価していくという方法です。これは、おそらく企業が障害者雇用を考えるとき、十分取り入れていくことが可能な方法なのではないかと思います。

  先ほどお話した個々の評価という部分については、工賃評価会議というものを設け、全スタッフで数時間話し合いをもちながら、職業支援のプロとして個々の能力に合わせた工賃につながる作業評価を行っています。先月と比べてどうであったか、これから先の可能性を考えてどうか、個にスポットをあてるようにという、相対評価から絶対評価に変わったことで、AさんにもBさんにも自信を持って働いていただける環境の基盤が出来たのではないかとおもっています。試行錯誤を重ね、まだまだこれからですが、周囲の皆様のご理解や多大なるお力添えにより、現在は平均工賃をやっと上回るところまできました。今後もなんとか、意地で維持し、より向上していきたいと思っています。

  障害のあるなしに関わらず、「働く」とはなんだろうと考えてみますと、これは大変むずかしい話でもあります。哲学者や思想家など知の先人たちの言葉をたどってみても、はっきりとした答えを導き出すのはとても難しい。ですが、プラグマティックに私たちの生活の問題も含めて考えてみますと、一つには、蟻やミツバチが緊密な社会を形成するのと同様、働くというのは本能的な傾向に根付いているものだと考えられます。本能以外の点で考えれば、自分探し、自己実現、社会への貢献、衣食住の確保など多種多様な意味があるかと思いますが、誰もが思い当たるのは「メシとカネ」の問題でしょう。つまり、生きていくために必要な物理的な報酬を得るために働いています。

  障害のある人が働くということを考えるとき、この「メシとカネ」の話がすぐに出てくるでしょうか。また、精神的な報酬としてのやりがい、自己実現や社会への貢献の話がすぐに思い浮かぶでしょうか。現状、そもそも限りなく狭い選択肢しかない中で、あきらめ、障害者の仕事を支えていくべき私たちの思考と想像力は止まってしまってはいないでしょうか。想像することをあきらめてしまうことは、障害のある人が働く支援そのものも、どこかであきらめてしまうことになるのだと思います。ですから、いつも想像力を働かせ、ルーティンに埋もれることなく、プロとして試行錯誤を続けていく姿勢が問われているのだと思います。職員一人ひとりが想像力を働かせ、ビジネスとして捉え、仕事をつくる。「メシとカネ」に直結させることのできる職場づくり、この場所以外へのステップアップというものを忘れてはいけないのだと思います。

  スクラムでは、内職仕事を80%くらいカットしました。時間にはゆとりが生まれましたが、さて、みんなと一緒に行う本以外の作業をどうしましょう。気の毒なことに、スタッフは呆然とします。ですが、この時間を使って何を想像し、新たな価値をどう生み出すか、今まで出来なかったことを始めるためのチャンスができたのです。ぬるま湯から出た今、実はここからが本当のスタートなのです。まだまだ暗中模索のまっただなかですが、希望の光の射す場所にようやく近づいてこれたのかなと感じています。

  先ほど申し上げました、スクラムのパースペクティブについてですが、それは「まちの古本屋」というものです。しつこいようですが、この「まちの」という部分にとてもこだわっています。

  私たちは「まちの居場所づくり」として、社会生活上の困難を抱える方の休憩所という取り組みも行っています。

    子育て中の親、高齢者、障がい児・者、その他様々な社会生活上の困難を抱えて生きる方たちにとって、周囲の理解の乏しさや風当たりは決して小さな問題ではありません。小さくてもいいから、その生きづらさを少しずつでも変えていくことのできるような居場所をつくりたい。ここなら安心して足を運ぶことができる、ここからなら出発も再出発もできそう、そうおもってもらえるような、誰にとっても居心地のよい場所を街の中につくりたいという切なる願いから始めました。

  誤解を恐れずにいえば、どうしても福祉施設というのは地域から距離をおいた存在となりがちなように思え、施設を利用される方にとっても、当然、地域から離れた存在とならざるを得ないのではないでしょうか。その理由というのは一つだけではないし、それは社会福祉の辿ってきた歴史的な背景などにも起因します。その辺の話をすると長くなってしまいますのでここでは割愛しますが、とにかくこれからは「今現在は福祉サービスなんて無縁だと思って生活しておられる方」が、気負わずに足を運ぶことのできるような光を施設に当てていかなくてはならないと思っています。

  地域のなかに積極的に入っていって参加し、従来のような福祉的な匂いだけのアプローチで完結させず、同情や義理に頼らない、一般の方々にとって普通に興味の持てるような、関係者以外の人の流れが自然にできる方法でアプローチしていくことが大切なのだとおもいます。快適な職場環境と安心できる支援を基盤に、地域に対して光をつくるアプローチ、地域という光の中に入っていくアプローチ、そのどちらか一方にかたよることなく、バランスよく地域との接点をつくっていくことがこれからの施設づくりにはかかせないと考えています。その第一歩として「古書肆スクラム」をスタートさせました。

 ここで人と人とが出会い、人とのつながりの中で気付いていく。その気付きこそが何かを理解し、じぶんに出来ることは何かと考えるための第一歩に変わっていくのだと信じています。

 言いっぱなしにならないように、いまいちど気をひきしめて、一歩一歩慎重に、丁寧に、確実にすすめていかなくてはいけないなと、改めてじぶんを見つめなおしている。

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