ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

出久根さんのこと。

僕が強く「古本」を意識するようになったのは、出久根さんの本を読んだことが大きい。ほとんどの作品を読んでいると思うし、自分にとって大切な作品も多い。中でも、やはり一番最初に読んだということもあって「漱石を売る/出久根達郎 著(文藝春秋)」に特別な愛着をもっている。これをはじめて読んだとき、なぜかココロの奥の方がびりびりしたのを覚えている。


もともと古本は好きだった。毎日のように古本屋さんに通っていたし、本を手に取ることはライフスタイルでもあった(もちろん古本屋だけではなく新刊書店にも足繁く通っていた。ここのところはとても重要なので強く主張しておきたい)。でも、今のような「熱」はなかった。家中が本に埋もれるようなこともなかったし、本が雪崩を起こして足を痛めたりすることもなかった。読まない本も買わなかった。出久根さんの本を読むまでは…。


出久根さんは長らく古本屋さんを営んできたということもあって、古本や古本屋をテーマとした作品が多い。僕にとって印象深い「漱石を売る」は、出久根さんが高円寺で<芳雅堂>というお店を開けていた頃の話しが主となる。夏目漱石の自筆もの(自筆は自筆でもその内容は…読んでのお楽しみ)を客買いして右往左往する話など、楽しい掌編が51話。本当の話なんだか与太話なんだかよく分からないところが出久根さんの真骨頂でもある。そもそも、古本屋さんのイメージって古本者でなければあまり湧いてこないと思う。のんびり帳場に座っていて、客が来ると厳しい視線を投げかけてくる。しかも一冊100円の本などを売っていてなぜ飯が食えるのか…そんな疑問に出久根さんの作品は面白おかしく答えてくれる。
おススメの著作は、『古本綺譚』『佃島ふたり書房』『本の気つけ薬』『本を旅する』『風がペ−ジをめくると ちくま文庫』『あらいざらい本の話』『古本・貸本・気になる本』『今読めない読みたい本』『いつのまにやら本の虫』『百貌百言 文春新書』『書物の森の狩人 角川選書』『本の背中本の顔』『書棚の隅っこ』『思い出そっくり 文春文庫』『人さまの迷惑 講談社文庫』『古書法楽 中公文庫』『古書彷徨 中公文庫』『本のお口よごしですが 講談社文庫』などなど。他にも好きな作品はたくさんあるのだけれど、なんども読み返しているのはやはり古本もののエッセイが多い。

古本綺譚 (平凡社ライブラリー)

古本綺譚 (平凡社ライブラリー)

出久根さんの使う日本語は美しい。丁寧にろ過されて磨かれた選ばれし言葉たちなのだ。こんな風に書いたり話せたりしたらいいなあと読んでいていつも思う。出久根さんは中学を出てから、月島の古本屋さん<文雅堂>に勤め、必死になって本のことを解ろうと努力されている。せっせと本を読んでは感じたことや気になる言葉を帳面に綴っていたらしいが、この時のこの努力が今の作家生活にも繋がり、美しい言葉を生み出す才能を開花させたのではないだろうか。


そんな大好きな出久根達郎さんが、あいおい文庫に来てくださることになった。今でも信じられない。最初にこの話をいただいた時には、うれしくて、うれし過ぎて、呼吸が止まりそうだった。大袈裟に誇張して言っているわけではなく、ホントのホントにうれしいのだ。月島にお住まいの方、佃島にお住まいの方、本が好きな方、古本が好きな方、出久根さんのファンの方、よく分からないけどこのブログを読んでくれた方、ぜひぜひ出久根さんの話を聴きに来てください。あなたも出久根さんを好きになるはず。好きな人はもっと好きになれるはず。


ココロの奥のびりびりは、今もずっと続いている。


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■講演「本の数だけ学校がある」 出久根達郎(作家)
古書店主にして直木賞作家の出久根達郎さんに、月島の古書店での修業時代をはじめ、本との付き合いをたっぷり語っていただきます。
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