かけがえのないもの。
数年前、ぼくは人から裏切られた。
悔しくて、情けなくて、心が爆ぜる寸前だった。
家族には心配をかけたくなかったので、海で少し時間を潰しながら心を抑え、ニコニコしながら家に帰った。
できるだけ元気に「ただいま〜」と声を出して、いつものようにぼくは玄関に立った。
子どもたちがパタパタと駆け寄ってくる。
そして、開口一番こう言った。
「ママ、なんでパパ泣いてるの?」
「えっ?パパ泣いてなんかいないよ」
ぼくは笑いながらそういったのだけれど、
「ねえ、なんでパパ泣いてるのかなあ?」
子どもたちはそういいながら首をかしげ、妻のほうを振り返った。
「あれ?ママも泣いてるよう」
妻は、半分笑って、半分泣いていた。
ぼくには、なんで妻が泣いているのか分からない。なんで…?
子どもたちはどうしたらよいのか分からないふうで、オロオロとしていた。
ぼくのガマンは、そこで限界に達した。
家族全員で泣きじゃくった。
わけも分からず、子どもたちも泣いていた。
妻はぼくの腕にしがみついて泣いていた。
くしゃくしゃの紙くずみたいな顔をしてみんな泣いていた。
ぼくは泣きながら、家族って最高だなと思った。
その日、ぼくは「かけがえのないもの」を見つけた。