ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

今宵も酒場で本を読む。

12月というのはどうしたって酒を呑む機会が多くなる。
お金がないので、たいていは安い大衆酒場をはしご酒。べろんべろんの千鳥足。それでもなんとか赤提灯を目指してひょこひょこ歩く。酒は好きだけど、実はそんなに好きじゃない。いや、やっぱり好きだけど、それ以上に酒場の雰囲気とかそこに置かれている自分とか人のことが好きなのだ。大人数で呑むよりも、じっくりと人の話に耳を傾けられるくらいの人数がいい。もちろんワイワイも楽しくて好きだけど、これは宴会であって「酒を呑む」というのとはちょっと違う。ぼくにとっての「酒を呑む」とは、人の話を呑み、泪を呑み、心を呑み、そこで差し向う人との付き合いを大切にして、その日のその場だけをまるまる呑みこむということなのだ。ひとり酒であっても、同じように己の内面に耳を傾けて大切に呑む。


酒を呑むのにも一応の作法があって、その酒場の常連さんたちによって違ってくる。酒呑みには酒呑みなりの屁理屈というのがあるのだけれど、ぼくにとっての屁理屈…いや、作法はたった一つ。どんなに呑んでもいいし、たまには呑まれたっていい。だけど最後にはみんな笑って別れるということ。これは簡単なようでけっこう難しかったりする。酒を呑んでいると普段なら十分に醸してから言葉にするような内容のことを、ついつい発酵していない状態のまま口走ってしまうことがあるからだ。熟成されていない言葉には誤解を生むという副作用があり、したがって笑顔で別れられないことになる。こういう失敗をしないためには、発する前に一呼吸おくことだ。酔っていてもそれを覚えていられるならば、の話なのだけれど。


酒(酒呑み)について書かれた本というのはかなり多い。どれも読めばたいてい呑みたくなるし、呑みに行きたくなるから不思議だ。酒と本とは実に相性がよい。よいのだけれど呑みすぎると読めなくなる。呑ん兵衛というのはいつだってそんな具合に千鳥足なのだから始末が悪い。
そんな呑ん兵衛の本好きが愛する酒場めぐりの本に、「今宵も酒場部/牧野伊三夫・鴨伊岳 共著(集英社)」というのがある。牧野さんは「あいおい古本まつり」のチラシにイラストを描いてくださっている画家さんで、美術同人誌「四月と十月」の同人であり、北九州市発行の季刊誌「雲のうえ」編集委員などもやられている。独特のタッチがぼんやりとあたたかく、一度見たら忘れられない魅力的な絵が印象的だ。共著はフリーランスの鴨井さん。ゲストに遠藤哲夫さんや石田千さんなども登場する。別に本の紹介がしたいわけではないのでこの辺にしておくが、読むとぼくはどうもこの本に呑まれてしまう。

今宵も酒場部

今宵も酒場部

変に感傷的なところがなく、酔って弾けた感もない。ここに書かれた絵描きの文章の中には、へべれけ酔いどれ男の心の声(視点とか心象風景とか)がやさしく詰まっていて、読み進めるうちに「やっぱり画家さんなんだなあ」と思えてくる。そんな心の声を追っていると、途中で出会うぼんやりとあたたかい画にやわらかく引かれ、追っていたはずなのにいつのまにか立ち止まってることに気づく。そんなふうに立ち止まって眺めていると、だんだん一杯やりたくなってくる。だんだん、だんだん、だんだんと、ガマンできなくなってくる。酒呑みメーターはぐんぐん上がり…


ほぼ書き上がり寸前だったとは云え、このブログを呑みの席で仕上げている自分が怖い…
カンパ〜イ!