ハチドリのとまる場所。

大好きな本のこととか日々の考えなど、あれこれ。

聞くための態度。

話せる人というのは多いけれど、聞ける人というのはそう多くないようにおもう。


哲学者であるモーティマー・アドラーという人の言葉に、『聞くことは主に頭脳の仕事だ。耳ではない。もし、頭脳が聞くという活動に積極的に参加していなかったら、それは「聞く」ではなく「聞こえる」と表現すべきだ』というのがあるのだけれど、そこにぼくなりの考えを勝手に付け加えさせてもらうと、『心を開いて話を受け止めていなければ、それは真に聞いたということにはならない』となる。


たとえば悩んでいる人の話を聞くときの「聞く」とは、しっかりと時間を取って相手の言葉に耳を傾け、その人がどんな経験をし、何を感じ、何をおもったのか全身で受け止めることをいうのだとおもう。そのためには話の途中で言葉を差し挟んだりせず(よかれとおもってのアドバイスなどを語りはじめたりせず)、最後までじっと黙って聞く姿勢が必要だ。これは自分自身も大いに反省するところではあるのだけれど、相手の話を聞くつもりが、なんとか助けになりたいとおもって、または結論を勝手に先取りして、あいづち以上の言葉を差し挟んで相手を黙らせてしまうことがある。それが如何に的を得た最高の言葉であったとしても、はたしてそれが相手の望んでいたことだったのかどうかと、あとになって考えてみて疑問が残る。


多くの場合、人はただ聞いてほしいだけなのではないだろうか。聞いてもらい、受け止めてもらえたからこそ、相手の言葉に耳を貸す余裕も生まれるのだろう。だから聞くためには、まず「聞くための態度」というものが重要になってくる。悩んでいる人の話を聞く、仕事関係の人の話を聞く、家族の話を聞く、その相手や場面によって聞き方は変わってくるのだけれど、まず聞くという態度が身についているかどうか、心と頭で聞けているかどうか、そこだけはどんなときも変わらないだろう。


ここで「聞く」に関する目の覚めるような言葉をもう一つ。『三流は人の話を聞かない。二流は人の話を聞く。一流は人の話を聞いて実行する。超一流は人の話を聞いて工夫する』 これは将棋棋士である羽生善治さんの言葉なのだけれど、一読してガッツーンとくる。羽生さんのいう「超一流の人」と、先に引いたモーティマー・アドラーの「聞くということは主に頭脳の仕事だ」というのには共通したところがある。ただ聞こえている人、聞ける人、聞いたまま動く人、聞いて考えて動ける人、同じ「聞く」でも、それはまったくのベツモノだということが、どちらの言葉からも伝わってくる。聞くための態度を養うということは、大切な相手のためでもあり、なにより自分のためでもあるのだ。いい人生を過ごすために、もっといい聞き方をしていこう。


ここでちょっと、「聞く」に関するイベントの宣伝を…
このブログでも何度か取り上げたことがあるのだけれど、星野博美さんと上原隆さんという、ぼくの大好きな作家さんお二方をお招きしてのトークイベントを「あいおい文庫」でやります。はっきりいって、ひっくり返りそうになるくらい興奮しています。このトーク、ぜったいにおすすめです。少なくとも、このブログを時折のぞいてくれているような方であれば、ぜったいに喜んでいただけるとおもいます。だって、ぼく自身が一番聞きたくて実現させたイベントなのですから。トーク終了後には、ちょこっとだけの懇親会もあります。お時間のある方は(お時間のない方も無理矢理なんとかして)聞きに来てください。話を聞くということ、聞いて考えるということ、超一流の言葉に一緒に耳を傾けてみませんか?


■普通の人に話を聞くとき

直視の人である上原隆さんと、視角の人である星野博美さん。お二人の文章からは、人生をジッと見つめる「やわらかな鋭さ」を感じます。それは「目」のよさだけでなく、他人と自分に寄り添って聞く「耳」をもった人だからこそ書くことのできる、特別な言葉の感覚です。
なぜ普通の人に話を聞きたいか、どんな話が聞けた時に思わずガッツポーズが出てしまうか、「耳を傾ける達人」たちが「普通の人」たちに話を聞くとき心がけていることを語りあいます。やわらかな鋭さを、ぜひ体験してみてください。


※このイベントの見所・聞き所を、公式ブログにまとめました!
星野博美×上原隆『普通の人に話を聞くとき』の見所・聞き所 : 第5回 あいおい古本まつり 2013


星野博美(作家・写真家)×上原隆(コラムニスト)


日 時:8月24日(土)16:30~18:00
会 場:相生の里「OPEN SPACE あいおい文庫」(東京都中央区佃3−1−15)
参加費:1,000円
参加申し込みは、件名「普通の人トーク」で abooklabo@gmail.com まで。
終了後に1時間程度の懇親会を予定しています。
「あいおい古本まつり」の詳細はコチラ▷http://aioibook.exblog.jp


星野博美(ほしの・ひろみ)
作家・写真家。大学卒業後、会社勤務を経て写真家・橋口譲二のアシスタントとなる。
1994年、フリーの写真家・作家としての活動を開始。1996年8月より1998年10月まで返還を挟んで香港に滞在し、その時の体験を記し た『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2012年『コンニャク屋漂流記』で、第2回いける本大賞、第63回読売文学賞随筆・紀行賞受賞。『戸越銀座でつかまえて』(朝日新聞出版)が9月に刊行予定。


■上原隆(うえはら・たかし)
コラムニスト。大学卒業後、映像制作会社に勤務。会社勤務と同時に、同人誌「揺」や、雑誌「思想の科学」において編集・執筆を行う。その後は作家活動に専念し、市井の人々の生き方に目を向けたルポルタージュや身の回りの何気ないことに温かな目を向けるエッセイを執筆。近著に『こころが折れそうになったとき』(2012年 NHK出版)や、『こんな日もあるさ 23のコラム・ノンフィクション』(2012年 文藝春秋)などがある。